「あの夏を忘れない」

      2017/08/20

「もう長くないって・・・来週、福岡のおじいちゃんのところに行こう」

電話を終えたお袋は俺にそう呟いた。

 

小さい頃から大好きだった祖父が、数カ月前から腎臓がんで入院していたのはもちろん知っていた。

祖父の入院が分かった頃・・・俺は夏の甲子園県大会予選の直前。すぐにお見舞いに行きたかったが、そんなわけにもいかず、もどかしい気持ちを抱え野球に打ち込んでいた。

高校入学後、勉強なんてろくにせず、すべてを野球に捧げてきた。少しでも長く生きてほしい、そう願いながら試合に臨んでいた。

そして迎えた本番。甲子園を目指し全力で闘ったが、3回戦で接戦を落とし、最後の夏は終わった。

試合が終わった後、帰りのバスで号泣した。

チームに貢献できなかった悔しさや後悔ももちろんあったが、何よりこのチームでもう野球ができないという現実を目の前にして、泣かずにはいられなかった。

高校野球も終わり、俺の心はまだ沈んだままであったが、すぐに祖父のことをが頭をよぎった。

「病状はどうだろうか・・」

そして、叔父からの電話は高校野球が終わった直後、突然かかってきた。

「かなり病状が厳しい。もう長くない」と。

それを聞き、すぐに俺と両親は祖夫の病院へ駆けつけた。

病院の駐車場に到着し、車を降りると、セミの鳴き声がうるさいくらいに聞こえたのを今でも鮮明に思い出す。

 

受付で手続きをすませ、病室へ。

「え・・・」

言葉がでなかった。。

目の前にいた祖父の姿は、俺が知っている祖父の姿ではなかった。

食事がとれず絶食で点滴管理。

がんが骨に転移しており、痛みが強く、モルヒネを使用しており、意識も朦朧としている。

俺は必死に泣くのをこらえ、祖父のもとに近づいた。

すると祖父が目を覚ました。

後でわかったことだが、祖父がはっきり目を覚ましたのはその時が最後だったらしい。

祖父は大の野球好き。

俺が高校野球をやっていることももちろん知っていた。

高校野球が終わったことをお袋が祖父へ伝えると、、

祖父がかすかな声でこう言った。

「よく頑張ったな」

そして

「検査してるだけだからな、待ってろな・・」

俺は耐えきれず、病室から飛び出した。

 

病室の外にいた祖母が俺に言った。

「じいちゃん、ほんとは家に帰りたいって、ずっと言ってたんだけど。もう帰れないね」

悔しかった。

亡くなる前に一回、自宅に帰してあげたかった。

その数週間後、祖父は息をひきとった。

 

その後、俺は猛勉強した。

そして医療福祉系の大学に進学し、病院に就職。

今現在、患者・家族を支援する仕事に従事している。

就職してから何度も辞めようと思った。死ぬほどきつかった。

でも辞めなかった。

それは、あの夏の祖父の姿を思い出すと、「絶対にやめない。必ず専門職として成長して、患者とその家族の生活が1ミリでも良くなるようサポートできるスキルを身につけたい」

そう思ったからだ。

あの時祖父は、自分が死に直面し、痛みもある中で、俺の部活での頑張りをねぎらい、そして、俺に無駄な心配をかけないよう必死にあの言葉を発した。

ずっと自宅に帰りたかっただろう。でもそれをサポートする専門職がその病院にはいなかった。

だから、俺はこの仕事に就いた。

これからも、この仕事はずっと続けていく覚悟だ。

決して甘い仕事ではない。他人の人生を左右する仕事だ。でも他人の人生の大事な一場面にかかわることができる仕事であり、誇りをもっている。

もっと患者さんやその家族がサポートを受けやすいシステムにするにはどうしたらいいか。何が必要か。

毎日考えている。

まだまだ未熟だけど。。

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この物語に登場した「俺」は僕です。

僕が今の仕事を目指したきっかけとなった出来事であり、いまでも忘れられないエピソード。

 

おい、何が言いたいんだよ(笑)って聞こえてきそうですが、ちゃんと意味があります。(笑)

 

今日お伝えしたかったのは、「物語」のパワーについて。

人間は端的に話をされるよりも「物語」で聞いた方が100倍記憶に残りますし、印象に残ります。

 

「なんで今の仕事を目指したの?」

ゆっくり友人や奥さん、彼女と話をしている場面、さらに深い話をしている場面等で、例えばこのような質問を受けた場合、ここまで詳細に話すことはもちろんありませんが(笑)、

「いや、祖父が亡くなったのがきっかけでね」

と伝えるのと

「ストーリーで話し、伝える」

のとでは相手にあたるインパクトは大きく違います。そして、ストーリーで伝えるとその人間の感情も伝わるため、人間性が強く表現されるから。

みんな小さい頃から「物語」が好きですよね。

今回は、「物語」のパワーについてお伝えしました。

 

ではでは。

 

 

 

 

 

 

 

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